蟹
親が出産で入院していた時、大きな箱が届いた
カニ
それも箱いっぱいに手足を伸ばした大きく立派なカニ
初めて見たが、子供ながらに「これは美味しくて、高い!」と即理解した
母の知人が出産に合わせ贈った物らしいが、それを父が食べようと言った
もちろん子供の私が断る訳もない
大きくて長いカニの足を折りながら鍋に入れ茹でる
食卓に新聞紙を広げ、ティッシュと殻を入れる皿をスタンバイし いざ!
言葉少なく皆でしゃぶりつく、殻が割れない部位は吸い付く
無論、カニ用のスプーンなんて家には無いので、片箸でかき出す
ゴミ用の皿から食べかけのカニを「ここまだ食べられるよ!」と父に戻されつつまた食べる
一生懸命、無心にカニと向き合っても一度で食べられず、その日の夜もカニ三昧だった
とても美味しく、特別感のある日だった
しかーし、その日はやって来る
母が退院した
ここからは平凡なコントのオチ如く
空き箱を見つけた母が「これ全部食べたの?!」「退院したら食べようと思っていたのに!」
いつの時代も食べ物の恨みは恐ろしい。空き箱片手に母が怒り、父が笑って切り抜けようとしたが叶わず、最後は父の逆ギレで終わった。
アイツらと食べた最初で最後のカニだった